1990年代半ば、演劇の公演で音楽を担当した時に、私は初めてこの門仲天井ホールに出合いました。以降、音楽のみならずダンスとのリハーサルで利用したり、コンサートや様々な企画に観客として足を運んできました。たとえば、NHKなどのディレクターを招いて行われた、ドキュメンタリー(死刑囚・永山則夫や光市母子殺人事件を扱ったテレビ番組)をめぐる企画などは、今でも印象に深く残っています。また、2006年春に「オルト・ミュージック」を立ち上げた私は、ここでコンサート・シリーズ “くりくら音楽会”及び“耳を開く”の企画制作を始めました。特に“くりくら音楽会”は、多くの人の願いがこもっている大切なピアノを生かすことを第一の目的に、2006年秋から始めました。あしかけ6年、詩人・谷川俊太郎さんや歌手・おおたか静流さんといった出演者も含めると、70名近い方たちが参加してくださっています。
上記のような社会問題をみんなで考えて話し合ったり、メジャーではないかもしれないけれど、自分自身や時代に真摯に向き合って活動を続けている人たちに、またエンタテイメント性あふれるものから前衛的・実験的なこころみをしている企画に至るまで、このホールは社会に広く開かれた貴重な「場」として機能しています。このようなことが実現できているホールは、今、東京都内には存在しません。ここには「人間」が集い、たくさんの豊かな「つながり」が生まれています。不謹慎は百も承知で敢えて書きますが、昨年の大震災の津波に襲われた何もない光景を想うたびに、失われたものは家や土地といった不動産という財産のみならず、人とつながっていく場であることに、私は深いかなしみをおぼえます。敷衍すれば、このホールの財産は単なる不動産としての価値のみにあるのではなく、今、みなさんが目の前で観たり聴いたり感じたりしていること、すべてが財産ではないか、と私は思います。どうかゆったりとした心持ちで、今宵は存分に楽しんでいただければと思います。
今年5月21日、東京では朝7時頃から、金環日食が見られるそうですが、 今晩は「太陽と月」をめぐって、いろいろな曲をコラージュしながら、即興演奏を行います。
プロフィール
東京都府中市生まれ。1980年代後半、自ら主宰したワークショップ「オルト」では、ブレヒト・ソングを素材に、ジャズだけでなく、演劇やエレクトロニクスの音楽家たちと脱ジャンル的な場作りを行う。坂田明(as)、早坂紗知(as)、斎藤徹(b)、酒井俊(vo)のバンドメンバーとして、また演劇や朗読の音楽、無声映画への音楽提供など、その活動の幅は広い。また1997年より5年間、地元の府中市でジャズ講座を担当。2000年秋、横浜ジャズ・プロムナードのクルト・ヴァイル生誕100年を記念したプログラムでは、自己の「オルトペラ・アンサンブル」で音楽劇『クルト・ヴァイルの道』を公演した。2004年からは、太田惠資(vn)、翠川敬基(vc)とのピアノ・トリオ「黒田京子トリオ」を始める。2011年春からはヴァイオリン奏者が喜多直毅に替わり、現在、精力的に活動中。ほかに、坂田明トリオのメンバーとしても10年以上に亘って活動しており、全国各地をまわっている。2010年春より、喜多直毅と二人で、言葉と音楽の実験劇場『軋む音』を不定期に展開中。また近年はジャズというよりも、即興演奏を主体とした演奏活動を行っている。国内のジャズ・フェスティバルはもとより、海外のフェスティバル(ニュールンベルグ、レバークーセン、ライプチヒ、パリなど)にも出演。CDにはリーダー作品のほかに、『坂田明mii/おむすび』、『カルメンマキ/ペルソナ』など多数。